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毒にも薬にも、なる [読後の感想]

doku.jpg「毒」 青酸カリからギンナンまで PHP研究所、2012年6月1日発行 を読んで

畏友船山信次日本薬科大学教授より、最新刊「毒」PHP研究所を献本いただいた。最初のページから、「毒」という怪しい闇の世界に引きずり込まれる。移動の電車、長距離で時間がたっぷりあったため、たちまち読了。面白いというのとは少し違うが、毒を盛るという非日常行為の背景に潜むサイエンスに惹きつけられる。

さて、そもそも「毒」とはなんだろう。船山氏によれば、次のように定義される。

化学物資の中には生物に対して何らかの作用をするものがあり、これらを『生物活性物質』と総称する。そいて、ある化学物質が望ましい作用をした場合、人はその化学物質を『薬』として賞賛する。これに対して、その化学物質が人に対して望ましくない作用をした場合、私たちはその化学物質を『毒』として恐れ嫌う。すなわち、全く同じ化合物でも、場合によっては毒といわれ、また、場合によっては薬といわれることがある。毒や薬というのはいつも人間の側の都合で呼ばれるだけで、その化合物の責任ではない。

なるほど、すべてはヒトの身勝手がなせる業ということか。近年になって有機化学が発達し、毒の姿を化学的に捉えることができるようになっているが、その前まではきわめてわずかな量で死を招くことのできる毒に対して、魔力的あるいは神秘的なものを感じていたことは間違いない。それが高じて、毒を不老長寿の薬と信じて服用し、結果として寿命を縮めた例が少なくないという。医療や薬学の発達した現代では、笑い話のようにも思えるのだが、船山氏は同じようなことを私たちはしていないかと問いかけている。すなわち、「薬になると信じて毒となるものを服用」してしるのではないかという。

ヒトが良くなることを期待して服用する薬とは、実はとんでもないリスクの塊のはずなのだが、それを引き受けるあなたは、いったいどんな根拠でそのリスクを負っても良いと判断したのか、さあ、その薬を飲み込む前にもう一度よおく考えてみよう。そう考えると、この本はかなりこわい。この本、しっかり腹を決めて読みこまないと、怪しい毒の花園へたちまち迷い込んでしまうだろう。

さて、その内容だが、これは新書にしては正直かなり重量級なので、まず最初に覚悟が必要だ。最初の2つの章が、毒の基礎理解を深めるためのパートで、ここで挫けてはその先に待つおどろおどろしい世界には入れない。というか、ここはさっと通り過ぎるような読み方もありかもしれない。船山氏独壇場の毒毒ワールドが始まるのは、第3章:歴史のひとこまを飾る毒、からで、これが第4章:食べ物と毒、第5章:毒による事故、と続いて、だんだん死という言葉が増殖し始める。そのピークは、第6章:毒にまつわる犯罪、であり、ここまで来ると読んでいても苦しくなるような事件がこれでもかこれでもかと続く。

トリカブト保険金殺人事件、本庄保険金殺人事件、二つの愛犬家殺人事件、貴腐ワイン事件、メラミンの粉ミルク混入事件、毒入り餃子事件、青酸カリウムとドクターキリコ事件、和歌山カレー事件、ブルガリア人作家毒殺事件、酢酸タリウムとアジ化ナトリウム、ポロニウムによる暗殺、オウム真理教の犯罪

これらが29ページにわたって、詳細に解説されている。犯罪に使われる毒の要件は、「手に入れやすく、使いやすく、効果が確実」であることで、これだけだとあたりまえのように思えるのだが、実は犯罪に使える毒の選択肢は多くはないという。犯行の後で、足がつきやすいものはだめという点など、なるほどとうなずくところが多い。

それにしても、毒によって人の命を奪おうとする犯罪が、わが国だけでもこんなに連続して起きているということ自体、かなり驚きであった。即効性の毒や遅効性のもの、あるいは投入の量の多少など、それぞれ目的によって選ばれており、ヒトの考える毒の効用の深さと暗さの広がりを思い知る。どうやら、また一つ知らない世界を教えてもらったようだ。


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